「さあ、最高の音楽を作っておくれ。
でも、お金にはならないから、一円だってあげないよ。
そして、いい曲が書けたら、とっとと死んでおくれ。
早く著作権が切れるようにね!」
これは、以前も紹介した現代音楽作曲家、吉松隆さんが作曲家に対する業界の本音を表現したブラックユーモアです。
この方はとにかく異端です。
正規の教育を受けず、一度も賞やコンクールに通ったこともなく、
独学あがりで業界にもケンカを売っている、いわばブラックジャックのようなタイプなので、
そのロック的な精神はわれわれゲリラミュージシャンやおとやが多く見習えることがあります。
音楽は数学の別バージョンのようなものなので、毎日の研究と貯金の積み重ねが大事なのですが、
勉強と同じくらい大事なのが作曲家の話を聞くことです。彼らのマインドを吸収することが、
自分の音楽人としての成長にクリティカルに関わってきます。
吉松さんのこの記事は特に学ぶことが多いので、少し長いですがご覧ください。
http://homepage3.nifty.com/t-yoshimatsu/~data/I,composer/03.toCompose.html
ユーモアたっぷりに、作曲家という仕事のリアルを語ってくれています。
印象的な部分を引用しておきます。
・意味不明な著作権料の振込(笑)
崩壊する前のソヴィエトで音楽祭が開かれて、そこで私のオーケストラ曲が演奏されて。その著作権使用料が、確か3-4年たってから振り込まれてきたんですが、その金額が「7円」(笑)。
・著作権という概念が登場した後の、大衆音楽と純音楽の地位逆転現象
「バッハやモーツァルト以前の貴族社会の時代には、宮廷で少人数の特権階級にのみ聴かれる音楽が、
膨大な報酬を伴って作曲され、例えば一般大衆の何百万人が鼻歌で歌い唱和するような俗謡は、
誰が作ったのかすら知られず、当然その代価なんか一円だって入らなかった。
ところが、著作権の発生以降はまったく立場が逆転した。
つまり、何百万人の大衆が鼻歌で歌う音楽こそが莫大な報酬を生み、
少人数の特権階級にのみ聴かれる純音楽の類いは、まったく報酬を生まなくなった。
これは、哺乳類が「小さくて数が多い」ゆえに地球上に繁殖し、恐竜が「巨大で数が少ない」ゆえに絶滅してしまったような、歴史的大逆転劇と言えるかも知れません。」
時間がない人のために、一番最後のこのメッセージだけは紹介しておきたい。心にきます。
「いや。確かに、失望が大きく希望の小さい世界ですけど、音楽を生み出す喜びはすべてを超越します。だから、
世界に失望することはあっても、音楽に絶望することは決してない。
私たちは別に、生きるために音楽をやっているのではない。音楽をやるために生きているんですから。
それに、音楽をやりたかったのに若くして亡くなったり、
戦争や災害のような絶望的な時代に生まれ合わせてしまって志を果たせなかった人たちのことを考えれば、
交響曲を書いても演奏してくれないとかお金にならない…なんて、悩むことでも何でもありません。
好きな音楽を書いてなおかつ生きていられるというのは、それだけで限りない幸運に恵まれたということですからね。」