ModificationとBasic Technology


YOAKE MUSIC SCEAN 2014 レポート&スタディ 第2回です。

今日のテーマは

Modification(修正・変更)とBasic Technology(基幹技術)

です。

これは椎野秀聰さんのお話であったのですが、

世の中の流行や盛り上がっている活動、商品、娯楽、産業などは、一見革新的な開発のように見えるものであっても、

そのほとんどがオリジナル技術のModification、つまり修正版とか翻訳版とか応用版であるということです。

これは、パクリとか非オリジナルとか、そういう批判的な文脈を意味しているのではありません。

経済活動や文化活動においては、

このModificationという概念のもとに新しい活動やアイデアを創造していくことが基本であるという、技術者や開発者側の姿勢のひとつです。

基礎理論や基幹技術(Basic Technology)を尊重し、その可能性をどれだけ引き出すことができるか、そこに全力で向き合うという態度です。

革新的な理論や科学技術の大発明などは、一世紀に数えるほどしか生まれないわけで、その開発に従事するのは一部の大専門家や天才たちにまかせて、

多くの人々はModification というフィールドの中において自分の創造性を追求していくわけです。

これは、椎野さんの楽器開発者としての経験から語られていることなので、非常に納得できます。

で、この考え方は、何も技術屋の世界だけの話ではなく、どの分野にもあてはまることだと言えます。

民衆音楽で言えば、大雑把にくくれば、そのほとんどはビートルズというオリジナルのModificationです。

さらに言えばビートルズだって、古典和声をベースにした楽曲構造は、バッハ・モーツァルト・ベートーベンなどクラシック音楽のModificationです。

ほとんどのロックはビートルズのModification、古典音楽のModification、またはその融合(Fusion)、その融合のModificationであったりするわけです。

ここで、前回の話とつながってくるのですが、

今までは、新たなModificationとしての新しい技術やメディアが生まれるたび、

それを使いこなす天才が登場して、全世界に爆発的に広める、という現象が起きていました。

その例として、

Jimi Hendrix × エレキギター
Arcade Fire × Pitchfolk
RUN-DMC × 白人ロック

などをあげましたね。

ですが、いまはこの現象が起きにくくなっている。天才自体あらわれにくくなっているし、そもそも新しいModification技術自体が、

それほど革新的なものが生まれにくくなっている。または、生まれてもマニアックな部分での拡大に留まってしまう。

一部の天才や新しい技術の登場に頼る時代は終わったということです。

それでは、これからの音楽にたずさわるものの姿勢はどうすればいいのか。

BLUE NOTE RECORDS. のCEOのドン・ウォズに取材した雑誌『WIRED』編集長の若林恵さん。ドンは次のように述べていると伝えています。

これからの音楽、またはミュージシャンは・・・

・無駄なものを排除して、経営をスマートにしろ
・音楽で大もうけできる時代は終わった。もう一発当てる必要はない。ふつうにくらせるだけ稼げればいいだろ
・それと、まあ・・・クソなレコードをつくらないことだな!!

と。

本記事はこちら。

http://wired.jp/2013/07/06/don-was/

つまり、音楽産業が巨大になりすぎて、成長しすぎて、何か音楽が権威的な、憧れ的な目でみられるようになってしまったので、

もうそれはやめろよと。

無理に新しいModificationを生もうとしたり、天才を目指したりしても無駄で、それぞれここの分野にしぼって活動していけばいいということです。

無理にマーケティングしたりメジャー展開しても苦しいということですね。クソなレコードが大量発生するしw

そんなことしなくても、最小限の活動で生活できるくらいの基幹技術は整っているんだから、

欲張って儲けるよりは、純粋に音楽をやれよ!ということです。

ましてや完全オリジナル、Basic Technologyを生み出そうなんてことは考えるな。そんなのは目指してやるもんじゃないし、

好きなことを追求し続けていれば勝手に生まれるものだ・・・・。

非常にシンプルな結論に立ち返ったわけですね。大衆に翻訳されるための音楽記号の開発にいそしむのではなく、

自分の内側からくる、ネイティブで純粋な音楽言語を発信していけよ!ということです。

オリジナルでなくてもいいが、ネイティブであれ!ということですね。これっていい考えですよね。

ほとんどの人類の活動がModificationであることを受け入れ、その上で自分のネイティブなアイデア、表現方法は何か、ということを考えて、

活動していけばいいのです。かんたんなことですが、自分自身と向き合うということですね。

本当にビッグに売れたいのか?本当にその音楽をやりたいのか?カネや名誉や変なプライドに囚われすぎていないか?ということを自分に問い、

自分がやっている音楽を、いま、本当に楽しめているのか?ということを考え続ける、ということです。

今日は、ちょっと難しい話だったかもしれません。

でも、非常に大事な話です。さすが椎野さん、大物は一言一言に含蓄と重みがあります。

おわり。

ありがとうございました。

追記

ちなみに、基幹技術(Basic Technology)の部分を生み出す人々は、

フランス人だそうです。フランスは他民族国家で、個性的な人が多い。いろんな独自の価値を開発しているおもしろい人がたくさんいるそうです。

だから、オリジナルがたくさん生まれる。さすが芸術の国ですね。

しかし彼らはビジネスが不得意なので、世界中のビジネスマンらが群がってなんとか広める、日本などのすぐれたものまねコピー屋(w)・Modifierたちが翻訳・修正して

広める、という構図が生まれるわけです。

エジソンの前に蓄音機を作ったヤツが二人もいた国ですからね。おそろしいところです。

ほんとにオリジナルを追求したいと思ったら、フランスにいくしかないですね。


新メディア×開拓者=革新


YOAKE MUSIC SCEAN 2014より得た情報をもとに、これからの音楽活動を考えてみます。

今日のテーマは

新メディア×開拓者=革新

です。

これは文化やエンターテイメント史上の現象を説明する一般法則のようなものです。

新メディアとは、その時代に開発された、影響力を持つ新しいメディア媒体・新技術などのことをいいます。

そして、開拓者とは、それを使って何かクリエイティブなコンテンツを生み出して世に爆発的に広め、新たな価値の提起と

ムーヴメントを起こし、革新を起こす人です。

これを音楽に当てはめると、例えば過去には次のような事例があります。

Jimi Hendrix × エレキギター
Arcade Fire × Pitchfolk
RUN-DMC × 白人ロック

などです。

ジミヘンとエレキギターというのはわかりやすいですよね。エレキギターという、すごい技術が登場したのはいいものの、
いまいちどうやって使えばいいかわからなかった時代に、ジミヘンという一人の天才があらわれて、
エレキギターのすごさ、ロックのすごさを決定づけ、ギターヒーローという生き方を提示した。

その後、フォロワーやまねをするギタリストが増え、エレキギター=ロックというイメージを植え付けたわけです。

Arcade Fire × Picthfolk

これはどういうことかというと、Pitchfolkという音楽メディアは、Arcade Fireをはじめて大々的に紹介し世に広めたことで

一気に有名になったのです。

Pitchfolkも元々は、趣味とボランティアで運営されているにすぎない音楽レビューメディアだったんですね。それが、当時まだ売れてなかった

Arcade Fireを「すごいヤツらがいる」と世に知らせてあげただけで、爆発したわけです。

では、RUN-DMC × 白人ロック の関係は?

RUN-DMCと言えば黒人のHipHopグループですが、彼らがエアロスミスの「Walk This Way」という曲をサンプリングした曲を発表するまでは、

HipHopはまだ芽のでないジャンルで、若者の娯楽や「黒人の遊び」ぐらいにしか思われていなかったのです。

それが、リック・ルービンというプロデューサーによって白人音楽のエアロスミスと融合されたことで、

全米に爆発的に広がり、HipHopを一気にメジャーなジャンルに変えたわけです。l

このように、時代ごとに新しいメディアやジャンルや技術はどんどん開発されていきますが、

それが一般に認知された背景には、それを巧みに利用して面白いことをするカリスマの登場があります。

新技術を自在にあやつるひとりの天才やパイオニアの登場によって、新しいジャンルの地位は確立されていくことが多いのです。

それが、いまの時代は、新しい技術やメディアはあふれていても、それを爆発的に広めるような開拓者があらわれにくくなっています。

新しそうにみえても、実は数十年前のやり方をちょっと変えたものだったりして、なかなか革新とまではいかない。

レディーガガのスタイルだって、革命的なように思えてじつは1920年代のモデルを援用したにすぎない、と言われています。

現代の例といえば、DTMや初音ミク、iPhoneアプリ、電子書籍などでしょう。

それらの技術を、当たり前の方法論や既成のカテゴリでなく、何か面白いアイデアで活用した人が、

革新者としてリーダーになる可能性があります。これからそんな人が出てくるでしょうし、すでに一部での成功事例もあると思いますが、

ほかには何があるでしょうか。

自分なら自由自在に操れる!という技術やメディアがあれば、それを追求し続け、何か面白い作品を提示するのがいいですが・・・

いまはなかなかそういうことが起きにくくなっている。

停滞した業界を刷新するための新たなムーブメントは、新しい技術とそれを活用する天才の登場を待っていては、

なかなかおこらない時代になってしまったんです。

その原因は、グローバル化やネット環境が整ったことにあると思います。

個人個人の活動が分割されすぎて、価値観が多様化し、市場も複雑化し、統一的なひとつのジャンルや技術でドカンと売ることは難しくなったのかもしれませんね。

あるコアなジャンルや技術の天才があらわれても、かつてのRUN-DMCのようには広がっていかず、マニアックな世界のみで完結してしまうのかもしれません。

では、これからの時代の音楽は、どういう風に変化していくのか。どんな革新が必要なのか。

技術やひとりの天才に頼らない、次の時代の音楽の在り方とは?

次回はそれをみていきます。


楽器界の革命家・椎野秀聰ーYOAKE MUSIC SEANE2014に登壇


今回からは
2013年11月25日に渋谷Quatroにて開催された
YOAKE MUSIC SEANE2014
主催:一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント、OTOTOY, TOKYO BOOT UP!
特別協賛:京都精華大学

より得た情報から、2014年の音楽の在り方はとう変わるのかを考察していきます。

特殊な形式のイベントであり、かなりスゴイ人たちも集まったので、全体像から紹介します。

このイベントは、トーク&ライブという形式で行われました。

「すぐ外側から見る音楽シーンの未来」というテーマのディスカッションと
「2014年のアーティストの販売方法」というテーマのディスカッションの
二部構成で、間に

BELLRING少女ハート

というアイドルと

浜田真理子

さんというピアノ弾き語りの方のライブを挟む形で進行しました。

ディスカッションは、主催者側の司会者とゲスト数名による対談形式で進められました。

第一部「すぐ外側から見る音楽シーンの未来」

ゲストは

椎野秀聰(しいのひでさと)
ESP,Vestax創業者

若林恵
雑誌『WIRED』編集長

竹中直純
OTOTOY代表

第二部「2014年のアーティストの販売方法」

ゲスト

加茂啓太郎
ユニバーサル・ミュージック合同会社
ウルフルズ、氣志團、相対性理論、ベースボールベアーなどを発掘

渡辺淳之介
アイドルグループ BiS マネージャー

高瀬裕章
でんぱ組.inc マネージャー

劔樹人
神聖かまってちゃん マネージャー
あらかじめ決められた恋人たち (Bass)
ミドリ の元メンバー

です。

とくにすごいのは、椎野さんなので、紹介しておきます。

日本にレスポールを導入したのも、ESPをつくったのも、VestaxをつくってDJを開発し楽器が弾けない人にも

音楽を開放したのも、全てこの人です。こんにち、われわれがバンドをやったり、DJを楽しんだり、楽器を楽しむことができのは、

全てこの人のおかげです。それはもう、楽器業界では伝説というか神のような存在らしいです。

1968年YAMAHA入社、当時楽器がなくレコードを聴くだけで悶々としていた時代にレスポールEG360を紹介し、

日本にギターブームを起こした張本人。その後、楽器製作会社ESPを創業、人々がより音楽を楽しめるように、より多くの人に音楽を開放するために

楽器関係の多様な事業を展開。楽器の修復・リペアの基準を底上げするのに貢献。さらに、楽器が弾けないヤツにも音楽を開放するために、

Vestaxを創業しDJを開発、世界中にDJムーブメントを巻き起こす。人が音楽を楽しむことを助ける活動をし続けた数十年だったが、2000年代に入り

「もう音楽業界はだめだ」と失望し業界をはなれ(w)、一時祖父の事業を引き継ぎシルク製品製造業に携わるも、最近また楽器業界に復帰、

「儲けられるかどうかはどうでもいいけど」楽器商として活動を再会し、都内にギターの展示場や代理店を開き、多くのギターマニアの注目を集めている。

という、楽器界の革命家のような人です。

一度は音楽を見限った業界の偉人が、いまどんな思いで現在の音楽シーンをみているのか、貴重なお話を聞くことができました。

さすがは大御所というか、見方が違う。いまは業界の中心にいる人たちでさえ音楽コンテンツの未来はまったくみえてませんが、

椎野さんは自身の経験と歴史的な視点からみた現代の考察によって、これからの音楽の未来を予測してくれました。

かなり衝撃的な話もでてきましたね・・・

どんな話だったか、次回から公開していきます。