バトル曲の作り方


今回はゲーム音楽解説です。え、いいって?マニアック?
いやいやゲームという枠をはずしてみれば、すごくよくできている作品なのですよゲーム音楽って。
カッコイイだけじゃなく、普通に作曲のテキストとして使えるような曲が多いのです。

今回MuseScoreで打ち込んだのはBelieving My Justice という曲(ドラムはなし)。

http://musescore.com/user/139965/scores/158859

作曲:伊藤賢治
ゲーム:『Romancing SaGa Minstrel Song』

この曲はイトケンさんの戦闘曲の定番スタイルともいえる、コテコテのバトルサウンドです。

原曲はものすごく派手ですが、エッセンスを抽出すると、ほとんどわずか4パートのみ。シンプルな弦楽四重奏とメロディにブラスがあって、シンセとハープがアクセントでたまに入るだけです。

打ち込んだ譜面を聴くとわかりますが、ドラムがなくてもグルーブを感じることができると思います。

ベースと内声のアルペジオが、がんばってリズムを刻み続けているから、グイグイと前へひっぱるグルーヴが出ているのです。

この、「スケールを動きまくるベース」と「内声でひたすらコードトーンを刻むアルペジオ」というのが、もとよりゲーム楽曲のリズムセクションでは多用されるスタイルであり、とくにイトケンさんのバトル曲は笑っちゃうくらいそれのゴリ押しなのです。

この曲はそれがよくわかる。また、コード使いも非常にシンプルで、転調もなく終始ダイアとニック上のコードで循環している。飽きないループ感です。

イントロの仰々しさやブリッジのユニゾンリフなども定番の手法。とにかくこれぞゲーム音楽というようなお手本のような曲です。

コードの基礎と、このスタイルを知っていれば、お手持ちのDAWまたはノーテーションソフトでバトル曲っぽいものがつくれるとおもいます。

MuseScoreのストリングスセクションで抽象化しただけでもこれだけ雰囲気でるのです。スケッチならこれで充分です。

http://musescore.com/user/139965/scores/158859

本当はコードネームも記載したのですが、ちょっとしたバグにより消えました。(MuseScoreは基本使いやすいのですが、慣れてくると細かい不親切設計が多い。グリッサンド実音で打ち込んだので表記変です)
これをお手本に作曲を解説する動画か何かつくろうと思っているので、その時に説明しようと思います。

バトル曲の手法というのはいくつもありますが、この曲では以下の手法が使われています。

・わかりやすくもりあがるイントロ
・スケール上を行き交うロック的なリフでステイするブリッジ
・ベース(スラップ音色)がリフを刻む
・内声部のストリングスが16分で高速アルペジオ
・展開が早いがサビがない。Intro後、Bridge-A-B-A-B-Bridge-A-B-A-B…を繰り返す

どれも定番中の定番です。

譜面上に抽象化すると非常にシンプルなつくりであることがわかりますね。
音楽は一見カオスですが、料理や建築と同じで、実は非常に論理的に秩序立って作られていることが多いのです。
いいゲーム音楽は特にすばらしく均整がとれていて、美しい。そこに魅力を感じるのですね。

ゲーム音楽と作曲好きな人はぜひ。ダウンロードもできます。

http://musescore.com/user/139965/scores/158859

ヴィデオスコア。

http://musescore.com/node/158867

原曲


リスナー参加型音楽


ゲーム音楽の双方向性について

ふつう、音楽とリスナーの関係は一方通行だ。音源化された曲、ステージ上で演奏される音楽が、一方的に聴衆に与えられる。

データ化された楽曲はとうぜんのこと、ライブでの生演奏でさえ、曲そのものに関しては聴衆は一切コントロールすることはできない。作り手と受け手は、ステージの上と下でまっぷたつに分断されていて、そこには覆しようのない主従関係がある。

しかし、ゲームの音楽は例外。音楽とリスナーに双方向性がある。

どういうことかというと、ゲームの音楽には、プレイヤーの操作によって、ある程度変化するようにプログラミングされているものがあるのだ。

つまり、ゲームの音楽というのはそのままでは未完成で、ゲームの進行に合わせてプレイヤーとともに創り上げていくのであって、それが演出に一役買っている。

プレイヤーを音楽体験に参加させるという意味で、ライブと同じような臨場感が得られるだけでなく、曲そのものにも変化を与えられる。

これはただ一方的に流すことしかできない映画音楽との決定的な違いだ。ゲームの音楽は、このような作り手と受け手が相互に補いあう関係をつくりだし、両者の関係をフラットにしたのだ。

例えば、前回のMOTHER『エイトメロディーズ』のように、進行するにつれてメロディーが増えて、最後に完成するというやつもそう。

ちなみにMOTHERは『3』でも音楽を効果的にゲーム性に利用していて、バトル中のキャラクターの攻撃音がキャラごとにギターだったり、ベースだったり、ピアノだったり、打楽器だったり振り分けられていて、BGMに即興演奏のようにうまくのるように仕掛けられているのがおもしろい。

マリオなんかでは、ステージクリアに時間制限があると、タイムリミットが近づくにつれて、テンポが速くなったりする。ヨッシーにのると、メロディーにパーカッションが加わり、強くなった感が出る。
ゼルダの伝説-『時のオカリナ』『風のタクト』『ムジュラの仮面』などでは、オカリナや指揮棒やラッパや太鼓などの楽器アイテムを演奏することで仕掛けが作動する。

このような、プレイヤーの操作に連動して変化する音楽性は、ゲーム音楽でしか表現できない独自の特徴だとして、任天堂は「インタラクティブ性」と名付けた。
これらの例は有名なものだが、たいていのゲームでも、BGMと効果音は非常に相性がよく違和感ないようにつくられている。

単体で聴くと味気ないBGMでも、プレイヤーの操作によってコロコロ追加される効果音によって、いきいきとした音楽になるように工夫されている。

『武蔵伝』というゲームは、迷子になったお城の楽団員を集めることで(それがメインのゲームじゃないけど)、ゲーム中のBGMで演奏されるパートが増えていく。

最初はリズムとバッキングパートしかなかったBGMが、楽団員を救出するたびに、メロディがふえ、打楽器がふえ、ハモりがふえ、オブリガートがふえ、徐々ににぎやかなミニオーケストラ演奏になっていく。

曲がだんだん完成していって、盛り上がっていく感じもよかったけど、なによりじぶんが助けた人が、ちゃんと存在していて、音楽でありがとうと言ってくれているみたいで、助けたんだっていう実感が湧くのがすごく嬉しかった。曲自体もすごく素敵。作曲者は関戸剛さん。植松伸夫さんのFFバンドBRACK MAGESでギター弾いている人。


音楽の教科書にのったゲーム音楽


ゲーム音楽は、そのクオリティの高さにもかかわらず、作品も作曲者自体も長いこと冷遇されてきた。その価値が評価されるようになったのは、わりと最近のこと。

前回述べたように、ゲーム音楽専門の演奏をするオーケストラが現れたり、かなり古い曲が現代の技術で再アレンジされてリリースされたりして、ゆるやかにリバイバルが起っている。

YMCKやSaitoneなど、あえて当時のゲーム音楽的なピコピコサウンドを使う「チップチューン」という新しい音楽ジャンルも人気。

90年代に大活躍していた当時の作曲家たちは、まだ一部ではあるがいまやコンサートや音大のゲストやインタビューにひっぱりだこになるほど。やっとその功績が認められてきた。

なかでも、小中学校の音楽の教科書に載るほどになった、

『エイトメロディーズ』-Mother-鈴木慶一/田中宏和

(1:05)
『愛のテーマ』-Final Fantasy Ⅳ-植松伸夫

は名曲。どちらも限りなくシンプルだが、やさしくて素朴な音が心に突き刺さる。はじめの何音か聴くだけで涙が出るほど好きな曲だ・・・

ゲームをやってた世代の子どもが成長して文科省に入って載せたのかな?だとしたら・・・よくやった!もっとやれ!

これらの曲はただのBGMではなくて、ゲームに合わせてちゃんとストーリーがあるのもいい。

『エイトメロディーズ』は、ゲーム中、ボスを倒していくことで、失われた「8つの音を集めていく」という遊びの要素と連動してつくられた曲。

音と映像とストーリーが組み合わさった、ゲームというマルチメディアだからできるすばらしい演出だ。8つのメロディーが完成し、主人公の記憶がもどるシーンは感動的(動画1:05~)。

『愛のテーマ』は、FF4のストーリーのテーマがずばり「愛」だから、そのまま作品のテーマソング。

FF4は仲間がバンバン死んだり、裏切ったり、転職?したり改心したり、人間関係のドラマを全面に押し出して、人間どうしの深い「愛」を描こうと工夫した作品。冒険や勧善懲悪が多いRPGとしては珍しい挑戦的なコンセプトであるため、賛否両論があるのもこの作品。

ゲームミュージック入門としておすすめの2曲。