ミュージックディスカバリーとは何か


今日は、TOKYO BOOT UPの公開記事第三弾

『ミュージックディスカバリー』

です。

音楽をDiscoverすること。dis(取り除く)cover(覆い)という言葉のとおり、音楽を「発見」することです。

これは何かというと、ちょっと業界用語的な感じもしますが、一般的にも広まってきているバズワードです。

どういうことを表しているかというと、世界の音楽サービスの主流となる基本概念、ひいては現代人の音楽生活の在り方まで包括するコンセプトです。

具体的には、現状の世界3大音楽サービスである

iTunes

Spotify

Pandra

が提供する音楽配信サービスの形態です。

これらのメディアは、世界の人々に、良い音楽との出会い、発見を可能にして、人生を豊かにしようというマインドで事業を展開しています(と思います)。

そのために、無料だったり、ほとんどのデバイスで使用できたり、車の中で使えたり(Pandraのみ)します。

Recommend Engine(レコメンドエンジン)という機能を搭載しており、これが利用者に「おすすめの音楽」を教えてくれ、購入を促す仕組みになっています。

iTuneseではGenius

SpotifyではEchonest

PandraではMusic Genome

というレコメンドエンジンで動いてます。

細かい話をすると、じつはこういう革新的なモデルをつくったのは、音楽業界の人間でなく、外からきたIT系、

データアナリスト系の人なんです。ずっと閉じた世界で動いてきた業界は、明らかに衰退していく産業の現状を打破するため、

刷新をはかるために外からの新しいアイデアを積極的に取り入れています。それで、インテリ系、MBA系などの、ちょっとビジネスよりの

「頭がいいヤツ」でしかも音楽も好きだという人材を集めているんです。LINKIN PARKのエージェントなんて元投資銀行のエリートらしいです。

これが海外のクオリティです。こういう、ビジネスがわかっている頭のキレるヤツが、エンターテイメントを動かす側に回ったら強いですよ。

意外と、頑固でクリエイティブでないのはアーティストの方ですからね。ビジネスのトップにいた人たちは、知識も経験も豊富であり、技術もあり、

しかもコミュニケーションや外交交渉のスキルに優れている。いま、こんなひとたちが海外の音楽業界ではどんどん入ってきてます。

日本の業界が太刀打ちできると思いますか?

日本ではまだCDが売れているので、Spotifyなどフリーミアムモデルのストリーミング配信は参入できていませんが、

これだけ音楽が売れる日本という大きなマーケットを、世界が放っておくわけがありません。必ずはいってきます。

TPPが発動されれば、きっと電波メディアにも外資が参入してくるし、海外ミュージシャンがテレビを占領するかもしれない。

そうしたら、一部の実力者をのぞき、あらゆる面で圧倒的な能力差がある日本のミュージシャンや音楽企業は生き残っていけますかね・・・

いろいろな意味で、いま日本の音楽コンテンツ業界は大きな転換点にさしかかっているのです。

これら3つのメディアを比べることで、未来の音楽生活の在り方がみえてきます。

今世界の主流となりつつあるSpotifyですが、3つの中ではこれが一番特徴的です。

iTunes, Pandraが無料のパーソナライズドラジオという形態であるのに対して、Spotifyはフリーミアムモデルのストリーミング配信という形態です。

サービスを限定した無料版をばらまき、有料のサブスクリプション(登録制)サービスに誘導するモデルです。

前回のべたように、音楽データに事実上物理的な価値はなくなってしまったので、基本的にこのようなモデルを採用することでしか音楽事業は成り立ちません。

近い将来、この形態が日本の音楽サービスでも主流となるでしょう。

音楽をより発見しやすく、提供しやすくするという意味でも、Spotifyは優れた機能を持っています。

これらのメディアの動向に注目することが、音楽のありかたやコンテンツとしての扱い方を模索するのに非常に役立ちます。

とくに当事者であるミュージシャンは、自分の音楽をどうマネジメントするのか、自分で意識しないとやっていけない時代です。

どこで配信すべきなのか、フィーはいくらもらえるのか、という視点を持つとともに、ほかのアーティストがこれらのサービスをどう思っているのか、利用しているのか、

そういうことも見ていくのがいいですね。

ちなみに、トム・ヨークが
「Spotifyはアーティスト本人への支払いが少ない」
「新人が育たない」などとTwitterでつぶやいたのが話題になっていますが・・・

Spotifyはレコード会社に60%,著作者に10%の売り上げ金を支払いしていますので、

事実上7割を制作者サイドに還元しており、「支払いが少ない」の論理は通らない、ちょっとおかしな主張です。

「新人がでない、育たない」とはいっても、そもそもSpotifyは音楽を発見するミュージックディスカバリーという理念で活動しているのであって、

新人ミュージシャンを育てるのは目的でもないし、そんな仕事はやってません。

それに、新人でもAviciiという歌手がSpotifyから出て売れた例があります。

だから、「トム・ヨークは何を言っているんだ?」という反応がおおむね多いようです。

トムの発言の善し悪しは別として、ミュージシャンだってこういうサービスの動向は注目しているのだということは、おさえておいてくださいね。


音楽は無価値になった


引き続き、2013年11月16日に開催されたTOKYO BOOT UP Conference Dayで得た情報を公開しています。

今日は、コンテンツとしての音楽の未来について話します。

結論からいいますと、音楽のデータ化の発達とストリーミング配信・ダウンロードサービスがインフラ化した現代において、

音楽の経済的価値というのは、事実上かぎりなく0になりました。

その上で、音楽をコンテンツとして扱い、収益を発生させるために、業界は新たなるサービスモデルを構築しなければならない、そういう局面に立たされています。

音楽に事実上経済的な価値がなくなってしまったというのは、解説するとこういうことです。

販売されている音源というのは、どんな形式であっても、所詮はマスター音源の「コピー」です。データのコピーでしかない。

オリジナルの制作にかかるコストは最初だけ。コピーにかかるコストなんてないのです。限界効用が働かない。

物質的にみれば、データのコピーに価値はないのです。また、流通に関しても、物理的な移動を伴わない、ただアップロードするだけなので、コストはありません。

もちろん、ジャケットやCDなどの物理的なパッケージを伴う場合は、限界費用は上がりますが、それも今はダウンロード販売が主流になったので、事実上なくなりつつあります。

データ配信が主流になり、コピーだけで商品が生み出せて、再生産のコストが限りなく減ることで、流通にかかるコストもなくなった。

すると、事実上、物質的な意味では音楽制作物に価値はないと言えるのです。

ただ、あくまで物質的な意味ではですので、情報的な価値はあります。

誰々がつくったこういう物語の曲だから・・・というストーリーに価値を感じるわけです。

だから、音楽をコンテンツとして扱うには、音楽そのものに付加価値をもたせようとするのが厳しくなっています。

どこを売りにしたらいいのか。どこにキャッシュポイントをつくるのか。格業者はそこのアイデアを考えるために頭をしぼっています。

わかりやすい例が、AKBにみられる握手権商法です。

あれは、音楽に価値があるのではなく、あきらかにアーティスト本人へのアクセス権が手に入るという、

「唯一無二の物理的価値」に価値があるわけです。音楽はコピーできても、人間はコピーできませんからね。

つまり、「音源に価値をもたせるのはきついから、歌っている本人に価値をもたせなきゃね」といって、

CDに何か、マテリアルベースの付加価値をつけることになった。それで、握手権とかブックレットとかのおまけが充実するようになったわけです。

日本でCDがまだ売れる理由はここにあります。日本はCD販売のサービスが段違いに良いのです。

日本では当たり前ですが、海外のCDなんて、ジャケットの質とか、歌詞カードがないとか、アーティストの詳細がないとか、不備がいろいろあって、

買う意味がほとんど感じられないそうです。だから、海外でCDを買う人はほとんどいないそうです。

音楽そのものでなく、何かアーティスト本人に関連したわかりやすい物理的な価値を付加してやる、というのが第一の戦法です。

制作にあたる側としては、とくにエンジニア系の人は、このやり方に猛烈な憤りを感じているようですね。

じぶんらが命を削って仕上げた作品が、ゴミ同然のように扱われる。まるでビックリマンチョコのように、シール(握手権)めあてで何枚も買われて、

チョコ(CD)本体は捨てられる。つくった側としては、許せない!となるのは当然です。

で、ほかには、サービスモデルをチェンジすることで、収益ポイントをずらすということがあります。

音源では回収できないので、いろいろサービスを考えて、構造的にキャッシュを発生させるというわけです。

そこで注目されているのが、Spotifyにみられるフリーミアムモデル、サブスクリプションモデル、チャンネル登録制モデルなどの形態です。

音源自体は無料で、より上位のサービスやハイレゾ音源の配信などは課金、というシステムです。

日本ではまだCDが売れており、Spotifyも参入できていませんけど、世界の音楽市場はすでにこのモデルが主流になっています。

Spotifyが参入していない国は日本ぐらいなものです。しかし、さすがにもう限界でしょう。

日本はこれでも世界一の音楽市場なんです。

必ずSpotify、またはそれに類似したサービスがインフラ化されます。

音源にはもはやまったく価値のない世界がやってくるのです。いや、もはやそうなっている。

この現実と向き合い、どのように音楽をコンテンツとして扱っていくか。音楽に携わる人は等しくこの課題に取り組まないといけませんね。

レコード会社や音楽出版社のように、業界の未来が見えなくなっちゃって、ひたすら制作者や作家を搾取し続けることしか考えなくなるような、

そんな風には決してなりたくはないですからね。

今日は以上です。